「平成レトロ」提唱者・山下メロが語る アノコロのスキーウエアと音楽とカルチャー

Chapter2

スキー文化と密接だった「平成レトロ」なJ-POPたち

聞き手:ミゾロギ・ダイスケ
(編集者/ライター)

今回の「ISHIUCHIMARUYAMA RETRO SNOW STYLE」でフォーカスする1990年代は、日本における平成前期と重なっている。そこで、「平成レトロ」を提唱者で、その時代のスキーのカルチャーにも詳しい“記憶の扉のドアボーイ”山下メロさんに、“アノコロ”についてリマインドしてもらおう。Chapter2は主に音楽がテーマだ。

「平成レトロ」なサイケなスキーウエアが流行っていた時期は、CDバブル、J-POPブームの初期でした。バブル経済そのものは91年に崩壊したとされますが、音楽業界とスキー業界だけはまだまだ右肩上がりだった背景がありましたね。

平成初期(90年代前半)は携帯電話とインターネットの普及前ですから、若者の投資先として、スキーがあり、CDがあったんですよね。今では考えられないですが、1曲しか入っていなくて1000円もするシングルCDを、みんな月に何枚も買っていたんですから。

それに、外資系CD店の店先に平積みにされていた洋楽のアルバムなんかもバシバシ買っていましたよね。

ところが、90年代の終わり頃になると、投資先が携帯電話に変わっていきました。昔のケータイは通話が主目的で、料金は月に1万円以上は普通でしたよね。その頃から、CDがだんだん売れなくなっていったといわれます。逆にケータイ普及前は、カラオケも流行っていたし、みんなが音楽に投資する価値を感じていたということですね。

80年代より、スノードライブミュージックとして、ゲレンデのBGMとして、スキーは音楽と密接な関係にありました。それが90年代になるとさらに結びつきを強くした印象があります。「JR ski ski(当時の表記)」と、「サッポロ冬物語」のCMは'91/'92シーズン、アルペンのCMで広瀬香美の「ロマンスの神様」が流れたのが'92/'93シーズンと、スキーをイメージするヒットソングの発信源も平成初期に始まっています。

ただ、広瀬香美さんの「ロマンスの神様」なんて、歌詞の内容はスキーとまったく関係ないじゃないですか。アルペンのCM曲はその前のゴーバンズや東京少年もそうですけど。スキーっぽい映像が流れて、ポップな曲が流れている。それで成立したのがスゴいと思いますね。

JR ski skiのCMで流れて大ヒットしたZOOの「Choo Choo TRAIN」も、「Skip」という部分が「SKI」に聴こえるようになっていますが、直接的にスキー場のことは歌ってないですね。

スキー場でも、流行っているJ-POPを流すだけでよかった。スキーをテーマにした歌詞じゃなくても問題なかったんですよ。

カラフルなウエアを着て、流行っている曲が流れる中で滑るだけで楽しい気持ちになれたというのは、確実にありましたね。


「平成レトロ」な時代、このような非日常的なスキーウエアを着て、流行りのJ-POPが流れるなかでシュプールを描けば気分がアガった
写真:山下メロ著『平成レトロの世界』(東京キララ社刊)より

当時、安比高原なんか、スキー場名の付いたコンピレーション・アルバムを出しているんです。スキー場のオリジナル曲ではなく、普通にいろいろなJ-POPが入っているだけ。

同じレーベルのミュージシャンの曲が順番に並んでいるヤツですね。

音楽制作はお金がかかりますから、そうなりますよね。それでも商品の企画として成立したんですから、スゴいじゃないですか。

ビジネスになると判断されたということでしょうからね。

音楽業界がかなり盛り上がっていたというのもあるんでしょうが。スキーを歌わなくてもいいというのは、それだけスキーが一般化していたという証拠ですよね。そこに余裕を感じます。


映画『私をスキーに連れてって』公開直後の石打丸山のゲレンデ風景。80年代、そして昭和の末期であり、CDバブルが発生する以前だ

思えば、映画『私をスキーに連れてって』('87年)で流れた松任谷由実さんの「サーフ天国、スキー天国」、「BLIZZARD」、「ロッヂで待つクリスマス」あたりは、すべて歌詞に「スキー」とか「ゲレンデ」といったワードが入っていて、明確なスキーのプロモーション曲になっているんですよね。

ところが、90年代はそれをやらなくてもよかったんですよ。それに対して、Jリーグが始まった1993年頃の日本代表の応援ソングである「WE ARE THE CHAMP」なんて、「フットボール」とか「サッカー」とか、何度も歌詞に出てきますからね(笑)。

サッカー業界でさえ、プロサッカーが始まった当初は必死だったと。逆に、90年代でストレートにスキーに寄せたヒット曲は「ゲレンデがとけるほど恋したい」がある程度ですかね。

あれも、広瀬香美さんがアルペンとの結びつきで寄せたみたいな感じですよね。同名の映画もありましたし。

一方で、直接「ゲレンデ」とか、「シュプール」といった歌詞がなくても、JR ski skiのCM曲だったglobeの「DEPARTURES」や、GLAYの「Winter,again」あたりは、冬を描いた「ウィンターソング」といえるものですよね。しかも、それぞれの最大のヒット曲ですよ。

テレビで何度も聴いたというのもあるし、毎年CMが注目されていたというのもありますが、「平成レトロ」な時代のスキー場を思い出す曲としては、そうしたコマーシャリズムとの結びつきがあった曲が多いんでしょうね。広瀬香美さんにしても。


「アノコロスノーマジック ~アノコロの雪とスキ♡をもう一度~」 mixed by ゆけむり DJs with DJ BLUE(avex)


「ISHIUCHIMARUYAMA RETRO SNOW STYLE」にDJとして参加する「ゆけむり DJs」がミックスしたコンピレーション・アルバム。細かい説明は不要。「アノコロ」を知る人は、収録曲を知れるだけでエモい気持ちになれる。

■収録曲
01. 浜崎あゆみ / appears 02. ZOO / Choo Choo TRAIN 03. 広瀬 香美 / ロマンスの神様 04. 大黒摩季 / 白いGradation 05. 相川七瀬 / 恋心 06. GO-BANG'S / あいにきて I・NEED・YOU! 07. SPEED / White Love 08. 大塚 愛 / 大好きだよ。 09. JUJU / やさしさで溢れるように 10. Every Little Thing / UNSPEAKABLE 11. CHEMISTRY / You Go Your Way 12. m-flo / been so long 13. 中西圭三 / You And I 14. 鈴木亜美 / white key 15. MAX / 一緒に・・・ 16. TRF / 寒い夜だから・・・ 17. 華原朋美 / I BELIEVE 18. 高野 寛&田島 貴男 Winter's Tale ~冬物語~ 19. Dual Dream / Winter Kiss 20. カズン / 冬のファンタジー 21. MOON CHILD / Hallelujah in the snow 22. JUN SKY WALKER(S) / 白いクリスマス 23. Hitomi / 体温 24. 倖田來未 / You 25. 小柳ゆき / あなたのキスを数えましょう ~You were mine~ 26. 藤井フミヤ / TRUE LOVE 27. MONKEY MAJIK × 稲垣潤一 × GAGLE / クリスマスキャロルの頃には -NORTH FLOW- 28. BoA / メリクリ 29. レミオロメン / 粉雪 30. 大橋トリオ / Winterland 31. 加藤いづみ / 好きになって、よかった 32. HY / 366日 33. Do As Infinity / 柊 34. GReeeeN / 雪の音 35. globe / DEPARTURES 36. GLAY Winter, again

SPEEDにあってモー娘。AKB、乃木坂にないものとは?

90年代はコマーシャリズムと絡んで盛んに制作されたウィンターソングですが、それもやがて下火になるときがきます。なにしろ1998年の長野オリンピック開催時は各テレビ曲がテーマソング、イメージソングを用意しましたが、ジャニーズ関連を除くとそんなにヒットしていないんです。

たしかにJ-FRIENDSぐらいしか覚えていないですね。あれも、歌詞は全然スキーと関係がないですし。同じ頃に登場したモーニング娘。には、ウィンターソングのような曲ってありましたっけ?

実は調べたことがあるのですが、モーニング娘。だけではなく、その後のAKB48、乃木坂46にしても、少なくともシングル表題曲にはないと思います。新潟県を活動拠点とするアイドルグループのNegiccoはサスガにそうした曲を出していますが。

ゲレンデを経験していない人が多くなっていますし、もはやアイドルがスキーや冬をテーマにした歌詞を歌っても、あまり共感を得られないということなんでしょうかね。

一方で、1996年デビューのSPEEDにはスキーは描いていないものの「White Love」がありましたからね。それも最大のヒット曲ですよ。その点を考えると、ウィンターソングというのは、ある意味で「平成レトロ」特有のカルチャーだといえますね。

そこは間違いないですね。だからこそ、価値がある。

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山下メロ(やました・めろ)

記憶の扉のドアボーイ。平成が終わる前から「平成レトロ」を提唱。平成初期~前半を中心としたバブル~1990年代特有の文化の保護を訴える。情報やアイテムの保護活動・発信を続ける。また、1980年代~バブル時代に日本中の観光地の土産店や施設の売店で販売されていた子ども向け雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」についても研究。日本全国で保護活動を行い、これまで調査した土産店は約6000店、保護した個体は22000種におよぶ。そのフィールドワークにおける出来事や成果を各メディアで発信している。著書に『平成レトロの世界山下 メロ・コレクション』(東京キララ社)、『ファンシー絵みやげ大百科失われたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。

ミゾロギ・ダイスケ

ライター・編集者・昭和文化研究家。スキー専門誌『ブラボースキー』(双葉社)の編集を手掛けつつ、レトロネタに詳しいライターとして各方面で暗躍中。2022年には『JRSKISKI30thAnniversaryCOLLECTIONデラックスエディション』(avex)に封入のブックレットの構成と執筆を担当。Webメディアでスキーと周辺カルチャーについての原稿を書くことも度々ある。ライターとして参加した『80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100』(ヘリテージ)は2023年3月発売。